【だれのもの?】
安部家の一室。そこに、顕現した天一が座って衣のほころびを繕っていた。
めずらしく彼女の傍らに朱雀の姿がない。
と、そこに彼女を呼ぶ声が響いた。
「天一 ーーーーーーーーーーーーーー!!」
勢いよく障子が開くと、そこには蓬華の姿があった。
天一のすぐ傍まで行くと、ガバッと彼女を抱きしめる。
「相変わらずかわいいわ〜〜〜vvv大好き天一V」
「どうしたんですか?蓬華」
笑顔ですりすりと天一に頬をよせる蓬華に天一は苦笑する。
「なんと!今日は朱雀が晴明の命で出かけてるのよね!!」
「・・・・・・・ええ」
うれしそうな蓬華に対し、天一は寂しそうに顔を俯かせる。
そんな彼女に蓬華は少し困った顔をつくった。
「そんな顔しないで天一。今日は天一は私だけのものよ!ずーっと傍にいるからねv」
「ありがとう、蓬華」
彼女らしいふわりとした笑みを蓬華に向けると、蓬華はきゃーっといって抱きしめる力を強めた。
天一と蓬華は年のころが同じなためか、出会った時からとても仲がいい。
とくに蓬華は天一が大のお気に入りで、朱雀と火花を散らしあうほどだった。
「ところで何やってるの?」
「露樹様が衣のほころびを直していらっしゃいましたので、私がかわりに。忙しそうでしたし」
そういって天一はその美貌に優しい笑みを称える。
蓬華はその笑顔に魅了されまくっていたとか。
_______〜〜〜〜天一素敵すぎよ!露樹の仕事を進んで引き受けて、嫌な顔一つしないなんて!!
あーかわいい〜〜〜vvv朱雀にはもったいなさすぎるわ!!
蓬華の目にはハートマークがうかんでいたとか、いないとか。
「じゃあ、私も手伝うわ!一人より二人のほうが早く終わるでしょう?」
「ええ、ありがとう蓬華」
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「おい、晴明!終わったぞ」
朱雀の第一声と共に、失礼します、という声がかかる。
入ってきたのは昌浩と物の怪だった。
「じい様、貴船で清めた宝玉です」
「うむ」
朱雀が晴明に命を受けた理由。それはつまり、こういうことだ________
何でも、悪霊に悩まされる貴族が晴明に泣き尽きてきたらしい。
晴明がその貴族の元へ行くと、予想以上にたちの悪い悪霊だったらしく、
しばらくの間、結界と宝玉で様子を見ることになった。
しかし、ただの宝玉だけではいささか心配なので、神のお膝元である貴船に昌浩達を向かわせ、
たかおかみの神の許しを得て宝玉を清め、そこに宿る力をより強く引き出したのである。
朱雀をつけたのは、その宝玉が宿していたという力が炎を司っていたからだ。
ならば紅蓮がいるのではと思うが、炎の性質上、朱雀の方が向いていたのである。
渡すものだけ渡してさっさと自室へ戻ろうとした昌浩だが・・・・
「これこれ昌浩、ちょっと待たんかい」
という晴明の一言により、引き止められてしまった。
「・・・・何ですかじい様」
「天一が露樹の代わりに衣のほころびを直してくれていてな。
すまんがちょっと行って取ってきてくれんかのぉ。・・・・朱雀、わしを睨んでもどうにもならんぞ」
「・・・・・分かりました」
「頼むぞ。ほら、お前も行け」
朱雀に一声かけるが、言われるまでもなく、彼も腰を上げていた。
晴明の部屋を後にすると、天一の神気を感じる部屋へと向かう。
「・・・・朱雀、何怒ってるの?」
昌浩はおずおずと問いかける。
朱雀は凄まじい怒りをあらわにしながら前方を睨んでいた。
「どうもこうもあるか!天貴はやっと起きられるようになったばかりなんだぞ!!
そんなときに露樹の手伝いをするとはどういうことだ!!」
怖い。本気で怖い。昌浩はつくづくそう思った。
「まあ、落ち着けや。ほらもうすぐそこだぞ・・・・・って、ん?」
なだめようとした物の怪が首を傾げる。
昌浩と朱雀もそのわけに気づいた。
「あれ?天一だけじゃなくて・・・・もしかして蓬華?」
蓬華は神の側近として仕えていただけあって、神気をかなり抑制できる。
完全に消す事はできないが、昌浩や十二神将、彰子でさえも気づかないほどに抑制する事もできるのだ。
昌浩が言い終える前に朱雀は行動に移していた。
なにせあの蓬華のことだ。
天貴に何をしているか、分かったもんじゃない。
急いで神気漂う部屋の前に行き、障子に手をかけ、勢いよく開く。
「天貴!!」
とそこには・・・・・・・・
「____________!?」
天一を抱きしめ、和んでいる蓬華と、そんな蓬華に苦笑している天一の姿があった。
一拍遅れて昌浩と物の怪が部屋を覗き込む。
蓬華が天一を抱きしめているのはいつものことなのでさして驚きはしないが、
問題は後ろから刺すように漂う、凄まじい怒りと殺気だった。
ギシギシと音がするかのように、ぎこちなく昌浩と物の怪は後ろを振り返る。
そこには表現しようもないほど恐ろしい朱雀がいたとか。
________こっ怖い。冗談なんかじゃなく、本気で怖い。・・・・こんな目で睨まれたら俺死ぬよ〜〜(泣
昌浩の心の叫びに、物の怪は大いに同感した。
「朱雀、お帰りなさい」
天一は朱雀を見とめると、花のように微笑む。
そんな天一に朱雀は微笑み返したが、蓬華を見とめると表情を一変させ、鋭い目つきで睨みつけた。
「・・・・・・蓬華、天貴に何をしている」
「もう帰ってきたの〜〜。せっかく天一と二人っきりだったのにぃ〜〜〜」
「・・・・・・・・」
「悪いけど、今日一日天一は私のものだから。手ぇ出すんじゃないわよ」
ねーっと言って蓬華は天一に笑いかける。
天一は困ったように微笑んでいた。
一方の朱雀はさすがに頭に来たらしく、己の太刀に手をかける。
「わーーーっ待った待った!!」
ようやく少しだけ、朱雀の恐ろしいまでの殺気から逃れた昌浩は、
あわや太刀を振り下ろそうとする朱雀の腕を背中からつかんで引き止める。
だが、あまりにも体格が違いすぎるのでとめられるわけもなく・・・・・
「はなせ昌浩!!」
いとも簡単に振り払われてしまった。
しかたなく、本性に戻った紅蓮が朱雀を押さえつける。
紅蓮でさえも、気を抜いたとたんに振り払われてしまうだろう。
「はなせ!!蓬華もとっとと天貴からはなれろ!!!」
「べーっだ。知るもんですか。じゃっ、天一、友好の証に・・・・」
チュッ。と音をたてて蓬華は天一の頬に口付けた。
ブチッ
「蓬華ーーーーーーーーーーーーっ!!!」
かくして、怒りのぎりぎりを保っていた朱雀の糸はぶち切れ、昌浩、紅蓮は巻き込まれ、
世にも恐ろしい追いかけっこが始まった。
「ほう、ほう、やっておるのぉ」
のんきに庭を眺めながら、天一をめぐっての大争論が繰り広げられている様を、
千里眼で密かに見ていた晴明の元に呼び声がかかる。
「晴明」
そう言って現れたのは十二神将の一人、勾陣。
「こうなる事を見越して昌浩達に天一から衣を受け取ってくるよう、命じたのだろう」
「さー何のことかな」
ほけほけと笑っている晴明をよそに、勾陣は昌浩の気持ちを身にしみて感じたのだった。
日差しの暖かい昼の一時。
怒号は止まる事を知らず、
昌浩は半泣きになっていたが
さて天一はいったい誰のものになるのだろうか
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あとがき
とうとうやりました、天一取り合い話!
一番書きたかったので、書けてうれしかったですv
蓬華さんはいろいろ謎ですが、これから書いていきたいです!
お粗末!!