甘い甘いお菓子がある
小さくて
色とりどりで
星くずのような甘い砂糖のお菓子。
きっと彰子は食べた事がないだろうから
見せたら喜ぶだろうと思ったんだ。
こんぺいとう
「お疲れ様です。先に失礼します」
昌浩は陰陽寮を退出し、顔見知りの役人に挨拶しながら歩いていた。
丁度太陽は西に傾きかけている。
「今日も一日長かったなあ。さっさと帰るぞ、晴明の孫」
「孫言うな!ところでもっくん、俺ちょっと三条の市に行こうかと思ってるんだけど」
「もっくん言うな!市?何か必要なものでもあるのか?」
共に歩いていた昌浩と物の怪は、もはや決まり文句となった舌戦を繰り広げる。
それでいてちゃんと会話になっているのだから、なんと言っていいものやら。
「うん、ちょっとね」
曖昧に返す昌浩を見上げていた物の怪は、にや〜といやらしい笑みを浮かべた。
「ほほ〜う。その買い物、彰子のためと見た!」
「うっ;」
物の怪がびしっと昌浩を指差して言った一言に、昌浩は二の句がつげない。
どうやら図星であるようだ。
物の怪は、そんな昌浩の反応を楽しそうに見ながら、直立したままの格好で腕を組み、
うむうむとしきりにに頷いている。
「なるほどなあ。いいねえ青春!しっかりやれよ、晴明の孫」
「孫言うな!!ーーーーーーー〜〜〜〜〜〜煩い、煩い!ほら行くぞ!////////」
昌浩は少々顔を赤らめながら、市へ向かって歩き出す。
物の怪は楽しそうについていった。
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「ただいま、彰子」
昌浩は帰るなり自室へと直行した。
「おかえりなさい、昌浩」
案の定、彰子は昌浩の部屋で書物をめくっていた。
優しい笑顔で昌浩を出迎える。
「昌浩、今日は遅かったのね。何かあったの?」
自分の目の前に腰を下ろした昌浩に、彰子は首をかしげながら尋ねる。
太陽はもう西へと半分傾いていた。
いつもなら昼餉時には帰ってくると言うのに。
「運、ちょっと三条の市に行ってたんだ」
「市に?」
「うん、そう。はい、彰子」
昌浩はそう言うと、懐から手のひら大の小さな袋を取り出し、彰子に差し出した。
彰子は不思議そうにしながらその袋を受け取る。
どうやら、袋の中には竹皮が張ってあるようだ。
「これ、何?」
「あけてごらんよ」
言われるままに彰子は袋の口ひもを緩める。
中を覗き込むとそこには____________
「!____綺麗・・・・」
色とりどりの小さな星型の粒がいくつも入っていた。
まるで星くずが手の中にあるようだ。
かすかに甘い香が漂ってくる。
「こんぺいとうって言うんだ。砂糖を星型に固めたお菓子で、すっごくおいしいんだよ。
彰子、食べた事ないだろう?」
「ええ、はじめて見るわ」
彰子は袋の中に手を伸ばし、こんぺいとうを一粒取り出し、口の中に入れる。
口の中にふわりと甘さが広がってゆく。
とても控えめで、優しい甘さだった。
「おいしい!」
彰子は本当に嬉しそうに微笑み、もう一粒口にする。
そんな彰子を見つめながら、昌浩も嬉しそうに微笑んだ。
こんぺいとうは一般にあまり身分の高くないものが好む菓子だ。
大貴族の一の姫である彰子は、きっと見たことも口にした事もなかっただろう。
きっと嬉しそうに食べてくれるだろうなと思うと、買っている時も思わず微笑んでしまった。
「本当においしいわ。こんなにおいしいものがあるのね。
昌浩、私のために買ってきてくれたの?」
「いつも干し桃や、干し杏を買ってきてくれるお礼だよ。気に入った?」
「ええとっても!ありがとう昌浩」
彰子は昌浩に満面の笑みを向ける。
東三条殿にいたころは、父がとても高価なものや、めずらしいものを用意してくれた。
しかし、どんなに高価なものよりも、どんなに珍しいものよりも、
今口にしたこんぺいとうのほうが何倍もおいしい。
それも、昌浩が自分のために買ってきてくれたのだと思うと、食べるのがもったいない気さえする。
そんな彰子につられて、昌浩も微笑んだ。
二人は幸せそうにこんぺいとうを食べていた。
「・・・・・・・・・俺って、もしかしてお邪魔?」
物の怪は完璧に忘れられていた。
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あとがき
無性に書きたくなった一作です。
学校の自習中に書いていたら、先生に見つかりそうになりました!!
危ない危ない・・・・。
ちなみに、平安時代にこんぺいとうなんてものが存在するのかどうかは知りません。(←おい
華月が勝手に想像したのです。
ほのぼのした感じに仕上がっていれば幸いです。