【目にした真実】

 

           「おはようございます。安部博士」

           昌親はとおりすがった成親に頭を下げて挨拶をした。


         
「おっ!昌親、お前がここにいるなんて珍しいな」

           「はあ、なんでも蔵人所陰陽師殿が来ているとかで・・・・」

           「何、おじい様が!?」

           

 

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           「今日は陰陽頭に用事があってな。ついでじゃ、ついで」

           「なら使いでも出せばいいでしょう!!」

           激しい剣幕で怒鳴り散らしているのは成親だ。

           その後ろに昌親、吉昌が鎮座している。

           ここは吉昌の仕事場だ。

           先ほど、唐突に現れた己が父に驚かされ、その後、えらい剣幕でやってきた長男と

           静かに怒っている次男がどかどかとやってきて二度驚かされ、まったくもって災難な吉昌だった。

           「いやあ、わしも家にばかりこもっておるとどうも足腰がのう」

           「足腰って、まさか歩いてきたんですか!」

           「当たり前じゃ」

           しれっと言い返す晴明に、もはや成親は言葉もなく膝をつく。

           軽い頭痛がするのは気のせいだろうか。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・気のせいだと思いたい。

           晴明の言葉にさすがの昌親と吉昌も目を見張る。

           何の連絡もなくやってきた晴明だが、そこまではまだいい。

           しかし、まさか歩いてきているとは。

           「父上」

           吉昌が厳かに声をかける。

           「ん?何じゃ」

           一方の晴明は飄々としたものだ。

           「あまり言いたくはありませんが、父上もお年なのですからご自分の体のことを考えてください。

           「これでも考えとるんだがのう」

           真顔でそんな事を言われては反論しようがない。

           吉昌が肩を落としそうになった時、外からどなるような声がかすかに聞こえてきた。

           「君は直丁でありながらいらぬ事に首を突っ込んでるが・・・・・」

           声はどうやら敏次のもののようだ。

           直丁といっている所から、どうやら怒鳴られているのは安部の末孫か、もう一人の直丁のようだ。

           ふだんの敏次を知っている吉昌は首をかしげた。

           「あの声は敏次ですね。普段彼はあんなふうに怒鳴ったりしないのだが・・・・」

           「直丁ということは怒鳴られているのは昌浩かもしれませんね」

           昌親も不審に思いながらも冷静に判断する。

           「気になるのう。よし、見に行くとするかの」

           晴明はその口元を扇で隠しつつ、その裏に意地悪な笑顔を浮かべていた。

 

 

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           安部一行が声をたどっていくと、だんだんと声は大きくなり、ところどころに“昌浩殿”という言葉が見え隠れする。

           やはり直丁とは昌浩の事だったのだ。

           己が末息子が今度は何をしでかしたというのか。

           吉昌の気は重くなる一方だった。

           しばらく行くと、向かい合っている敏次よ昌浩の姿が目に入る。

           昌浩の後ろには当然の事ながら、物の怪と蓬華の姿があった。

           晴明達は二人+一匹+一神(?)の反対側にまわり、様子を窺う。

           「だいたい君は自分の立場をわきまえているのかね」

           「・・・・・・・・・・そのつもりですが」

           「では問おう。君の役職は何かね」

           「・・・・・・・・・・・陰陽寮の直丁です」

           「では陰陽生でもない直丁が、陰陽生の問題である赤鬼の情報を知る必要があるのか!!」

           なるほど、そういうことか。

           最近、京の都には夜な夜な赤い鬼とその配下であろう妖が数匹、出回っているそうなのだ。

           毎晩夜警に出かける昌浩の事、

           雑鬼たちから聞いた、もしくは実際にその赤鬼に遭遇したかしてその情報をつかんだのだろう。

           そして、より詳しい情報を得ようとしていた所を敏次に発見され、ひんしゅくを買ったにちがいない。

           「だいたい君はでしゃばりすぎだ!もう少し自分の力量をわきまえたまえ!」

           「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

           「それに、君は妖というものを見たことがあるのか!」

           「・・・・・・・・・・ありません」

           昌浩は後々面倒になる事を考え、あえて見たことがないと答えたようだ。

           「そうだろう。いや、気にすることはない。君はまだまだ修行の余地があるということだ。

            そうだ、聞かせてあげよう。私は妖を三度見たことがある。それはそれは恐ろしいものだった。

            内、二回は私の手で調伏した。

            それもこれも、私が陰陽生だったからできたのであって、もしそういう事態に陥った時、

            君では調伏する事もできず、亡き者にされるのがおちだ!」

           「・・・・・・・・・そうですね」

           物の怪と蓬華はあからさまに「はあ?」という顔をしている。

           「・・・・・・・・・こいつバカ?」

           「おーいおーい、昌浩は今まで何十匹も調伏してるぞーーー」

           二人の発言に晴明は苦笑する。が、目は笑っていなかった。

           「だいたい、ご家族が優秀だからといって調子に乗るのはやめたまえ!!」

           ぴくっ。

           この発言はさすがの吉昌たちも聞き捨てならないものだった。

           四人の顔に剣呑な光が帯びてゆく。

           物の怪と蓬華にいたっては、すでに殺気をむき出しにしていた。

           「前にも言ったが、君もいい加減祖父や親の七光りが通用しない事を自覚したまえ!!!」

           晴明は苦い顔をする。あらかた予想していたとはいえ、ここまで非道とは。

           何もしてやれない己がひどく悔やまれた。

           どうやら、あらかた片がついたらしい昌浩がその場を後にする。

           物の怪と蓬華は表情というものを消していた。

           「・・・・・・・・・父上」

           おそろしく低い声で成親が吉昌に声をかける。吉昌は苦い顔をしていた。

           _______敏次はまじめなのだが・・・どうも思い込みがなあ。さてどうしたものか・・・・・・・・・・。

           「何だ、成親」

           「あのガキぶっ飛ばしてもいいですか」

           返答に詰まった吉昌が何か言いかけたところ、

           なぜか物の怪と蓬華が未だその場にたたずみ、ぶつぶつとなにやら呟いている敏次に向かって走ってきた。

           パッと地を蹴ったかと思うと、まず物の怪が目を見開く。

           「いい加減にしやがれ、この能無しえせ陰陽師!!!!」

           怒号一発。後方回し蹴りが炸裂した。続いて蓬華もさっと地を蹴る。そして__________

           「えらそうな事言うくらいなら私の姿くらい見えるようなれ!!このヘッポコ陰陽師!!!!!」

           華麗なひねり足落しが見事に決まった。

           敏次は二度の攻撃によりすっ飛ばされ、そのまま夢の世界へと旅立っていった。

           一方、安部一行は唖然としてその光景を見つめていた。

           ________蓬華、紅蓮よ・・・。お前たち理はいったいどこへ・・・・・・・

           ________・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(頭痛が・・・・・・・・・・)

           ________・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

           ________ちっ、先を越されたか。

           どれが誰のものかはご想像にお任せしよう。

 

           世の中には知らなくていいことがある。

 

           知らない方が幸せな事もある。

 

           しかし、目にした以上、真実が変わる事は消してないのだった。

 

 

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            あとがき

              見なくていいものを見てしまった安部一行。
              表現が変ですが、書いてて楽しかったですv
              

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