時は夜も更けた頃。
昌浩はすのこに腰かけて空を見上げていた。
目の前に広がるのは、見事な輝ける星。
「・・・・・・・・・はあ」
この星空は非常に美しい。
美しい、のだが。
陰陽師たる昌浩はこの星を全て覚え、なおかつ位置も正確に把握しておかなければいけないのだ。
はっきり言って、昌浩はそれがあまり得意ではない。
寝付けないので外で星でも眺めようかと思ってすのこに腰かけていたのに、逆に落ち込んでしまった。
改めて空に顔を向ける。
この星の中に自分や彰子の星もあるのだと思うと、なんとも不思議な気持ちになる。
自分と彰子が出会えたのは、この星たちのおかげでもあるのだから。
「昌浩?」
ふと、己を呼ぶ声が聞こえたかと思うと、振り返った先に彰子が立っていた。
彰子は単衣の上からうちぎを数枚羽織っている。
「どうしたんだ彰子?こんな夜更けに」
「寝付けなくて。昌浩は?」
「俺も」
二人はその会話に笑い合う。
彰子は昌浩の隣に腰掛けた。
「綺麗な星空ね。・・・・・この中に、私や昌浩の星もあるのね」
昌浩は軽く目を見張る。
同じ思いを抱いていた事に、なんだか心がくすぐったくなる。
「そうだね。俺にはまだよく分からないけど・・・・」
知らないわけではないし、一応全ての星と位置は頭に入っているが、得意でない事に変わりない。
「----------------」
と、急に彰子が歌いだした。
昌浩は驚いて彰子に向き直る。
彰子の声は小さいがよく澄んでいて、静かな辺りによく響く。
その歌はとても穏やかで、優しくて、心が和んでいくようだ。
知らず知らずのうちに昌浩はその歌に聞き入っていた。
優しい旋律と共に、その歌が終わりを告げる。
「・・・・・・・・・・・・・綺麗な歌だね」
「ありがとう。私がまだ小さかった頃、お母様がよく歌ってくれたの。
ゆっくり眠れるおまじないだって」
彰子は少し恥ずかしそうに昌浩に向かって笑った。
つられて昌浩も微笑む。
「なんていう歌?」
「名前はないの。ただ、星の美しさを歌った歌なんですって」
二人は同時に星空を見上げる。
輝く星たちが、同じく輝ける命に向かって笑ったように見えた。
「・・・・・・・・・彰子、そろそろ戻る?冷えるといけないし」
「大丈夫よ。だからもう少しここにいてもいい?」
彰子は、ほんのり紅く染まった顔で笑った。
まだ秋の初めなので外にいてもそう心配はないだろうが、やはり夜は冷えないとも限らない。
「・・・・・・・・・・じゃあ、こうしよう」
言うと昌浩は自分が羽織っていた大うちぎで自分と彰子を包み込んだ。
大きかったので、二人はすっぽりとその中に納まる。
最初彰子は驚いていたが、やがてあったかいと呟いた。
「これなら寒くないだろう?」
「・・・・・・・・ええ」
二人とも幸せそうな笑顔を浮かべている。
「・・・・・・・彰子、さっきの歌、もう一回歌ってよ」
「・・・・うん」
彰子は再び歌いだす。
先ほどと同様、穏やかな空気があたりを満たした。
次の日の朝、二人を起こしに来た吉昌によって、
大うちぎに包まって、二人してすのこで寝ている昌浩と彰子が発見されたとか。
その時の吉昌の驚きようといったらなかったと、
後に物の怪から聞くのであった。
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あとがき
初、お題作品です。
ちょっと昌浩が積極的?
ほのぼのに感じてくだされば幸いです。