「はあ______っ。私ってどうしてこうなんだろ・・・」
【夜桜と共に慰めの杯を】
月明かりの中、玄武は川沿いに咲く桜の木を見上げていた。
まだ春の半ばとあって、満開とはいかないがそれでも七分咲きほどの桜が残っていた。
春の香りを運んでくる心地よい風と共に淡いピンクの花びらが宙を舞う。
へいし
桜の下に座り込んでいる玄武の手には杯が握られ、隣には瓶子が置かれている。
「貴族の方々に大量に酒を頂いたものでな。お前達一本ずつどうだ?」
晴明は春になるとさまざまな行事に狩り出される。
それはもう本当にたくさんの行事があるので、あの晴明でもいささか参っていたようだ。
神将は人の食物を口にする事はないが(できないことはないのだが)酒はたしなむ。
というより、神将のほとんどが酒好きなのだ。
神の末端に席を並べるだけあって、いくら飲んでも酔うことはない。
ただ、その味が苦手という天一や天后はあまりすすんで酒を飲んでいないのだ。
そして、晴明の言うとおりあちこちの貴族からお礼の一部としてそれはそれは大量の酒を頂いたというわけだ。
さすがに晴明や吉昌だけで飲み干せる量ではないし、露樹はあまり酒が好きではない。
かといって昌浩や彰子に大量に飲ませるわけにもいかないので、神将に配られる事になったのだ。
「・・・貴族からというだけあってなかなかの味だな」
玄武が独り言を呟いた時、慣れ親しんだ神気と共に強い風がふいた。
勢いよく桜が舞う。
思わず目を閉じた玄武が目を開けた瞬間、となりに膝を抱えて座り込む太陰の姿が見てとれた。
「どうしたのだ太陰」
「・・・・いつものことよ」
玄武は心の中で溜め息をつく。
「今度は何をしでかしたのだ?」
「・・・・・・・・」
つまりはこういことだ。
毎夜の事だが夜警のために都に出て行った昌浩と物の怪をすのこに腰かけ、月明かりで本読みながら待っていた彰子の羽織っていた掛 布が風で木の上に飛ばされたため、
護衛で穏形していた風将の太陰が風で掛布を取ろうとしたところ、どうにも加減を誤り、彰子の手に傷をつけてしまった、と。
幸い、小さな傷だったので血の量も流れ落ちるほどではなかったが、いろんな意味で太陰は慌てた。
_______彰子姫に怪我をさせた!?神将の理は!それよりも血が、血が!?
結局、慌てふためいていたところになぜか晴明が駆けつけ(きっとお見通しだったにちがいない)彰子と手当てをし、太陰はとうとうと晴明に 叱られたという。
この程度の傷では神将の理には触れないようだ。
玄武は今度は声に出して溜め息をついた。
「何よ!」
「自分が細かい風の扱いが苦手なことは分かっているだろう」
「でもっ!あのときはそうするしか________」
「下手をすれば彰子姫の怪我もその程度では済まなかったかも知れぬぞ」
「うっ・・・・」
「さらに言えば太陰が怪我をしたかもしれないのだぞ」
反論しようがない。
実際事実であるのだからどうしようもないのだが。
玄武は軽い溜め息を漏らしつつ、どうしたものかと考える。
太陰は悪気があってやっているのではない。
ないのだが失敗ばかりのせいでよく叱られる。
周りはもうそれが当たり前のようだが、叱られるたびに泣きそうな顔で玄武のもとへ現れ、衣の袂をつかんで座り込む彼女を彼は知ってい る。
彼女は自分なりに頑張っているのだ。
それが分かっているからこそ、玄武は何も言わず彼女の頭をなでてやる。
案の定、彼女は玄武の衣をつかんで俯いた。
玄武は彼女の頭に手を伸ばすと優しくなでてやる。
「太陰、彰子姫の掛布はとれたのか?」
こくりと太陰が頷く。
「そうか。・・・よくやったな」
ポンポンと彼女の頭をたたくと、彼女はせきを切ったように玄武に抱きつき、声を上げずに泣き出した。
よほど堪えていたのだろう。
彼女の震える小さな肩はとまることを知らない。
「次、何かあれば我に言え。・・・慰めの杯を交わしてやる事ぐらいはできる」
肩を震わせながらも頷く彼女の頭を玄武は優しくなで続けた。
半刻ほどあと、泣きつかれて玄武の膝に頭をのせ、眠りにつく太陰の姿を少々色あせた美しい桜の木だけが見下ろしていた。
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あとがき
・・・何がしたかったんだ私!?
題名とそぐわない、まったく意味不明の文章になってしまいました。
つまり、太陰のことを一番よく分かっているのは玄武だと言いたかったのです。
何はともあれ、大好きな玄武×太陰が書けてよかったですv
次はまともな小説書きたいなぁ〜