晴明に命の刻限が迫っている。
全ては天狐の血のせいで。
後どれほどの時が残されているのか
それを知るのは先見の神だけ・・・・・・・・・・・
未来という事
高淤の神に聞いた。
じい様の命を延ばす方法はないのか、と。
得た答えは
「-------------赦せ」
希望はついえたと思った。
・・・・・けど、未来を司る神ならば?
未来を司る神ならば、その未来を変えることもまた、できるのではないか-----------------?
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「・・・・蓬華」
高淤の神から答えを聞いてから、安部邸に戻ってより数刻。
昌浩も、神将たちも、同様に肩を落としていた。
無理もない、日本で五本の指に入る大神にして天津神でさえ、晴明の命を永らえさせる方法は分からないと答えたのだから。
そんな中で響いた昌浩の声は、その場にいた神将と、神の意識を集中させた。
「何?昌浩」
問い返す蓬華の声は、いつもと変わらぬように聞こえる。
「蓬華は未来を司る神なんだよね?」
「ええ、そうよ」
「だったら・・・・・」
昌浩が息を呑む気配が、空気を振動させて伝わってくる。
俯いていた昌浩が決心したように顔を上げ、隣に立つ蓬華を真っ直ぐに見据えた。
「・・・・・蓬華の力でじい様の命を永らえさせる事は、できないの?
未来を変えることはできないの?」
その場にいた神将達が、昌浩の言葉に絶句する。
だが、考えてみればたしかに、蓬華は未来を司る神。
神将と違って神なのだ。
ならば、本来の天命と食い違ってしまった晴明の命を、天命に戻す事ができるのかもしれない。
天命を変える事は、できないとしても。
「・・・・・・・・・・・・・」
蓬華は、無言で昌浩の視線を受ける。
昌浩の瞳はとても澄んでいて、とても必死で、心から晴明を助けたいと思っていることが窺える。
「・・・・・・・・・・・・・・ごめんなさい」
蓬華は瞳を閉じてポツリと呟く。
それは昌浩の思いを否定する、言葉。
その言葉を聞いた昌浩は、最後の希望を失い、呆然としていた。
神将たちもまた、落胆した様子が空気を介して伝わってくる。
蓬華はゆっくりと瞳を開いた。
「・・・・・・・・・・未来を変えるのは神じゃない。人なのよ」
蓬華の言葉に、昌浩はハッと顔を上げる。
蓬華は、神将たちも含めて、次の言葉を求める視線が己に集まるのを感じた。
「昌浩、私は未来を司る神。けれどね、未来を変えるのは、人の思いなのよ。
未来よこうであれと願い、そのために必死に努力する。
そういった人々の思いが届く時、私は未来を定める。
それが私、私の力」
蓬華の声は、いつもの声からは想像もできないような冷たさを含んでいた。
昌浩達は、その言葉を噛み締めるかのように考え込んでいる。
やがて、昌浩が口を開いた。
「じゃあ、じい様の未来はどうなって・・・・」
言いかけた昌浩の言葉を、蓬華は手でもって制した。
神である蓬華が拒んだ以上、昌浩はどうやっても、言葉を口にする事はできない。
「それを聞くのはやめておきなさい。
私が口に出せば、それは未来として確定する。
確定した以上、未来は変えられなくなるわ。
それがどんなに絶望的な未来であったとしても」
蓬華は、手を下ろして昌浩の言葉を開放する。
昌浩は俯いて口をつぐんでしまった。
神将達は、ただなすすべもなく二人を見守っている。
蓬華はふと手を伸ばすと、俯く昌浩の頭をくしゃくしゃとかき回した。
何事かと顔を上げた昌浩に、蓬華は先ほどと打って変わって優しい微笑みを浮かべていた。
「しっかりしなさい、安部昌浩!
あなたが心から晴明に生きて欲しいと願って、必死に努力したなら、その声は必ず私に届くから。
だから、自信持ちなさい。
・・・・・晴明に、生きてて欲しいんでしょう?」
蓬華の声はとても優しくて、暖かくて、涙が溢れそうだった。
だが、ぎりぎりの所で踏みとどまる。
昌浩は再び俯いて、震える声で言葉を口にした。
「・・・・・・・・・・・・うん」
蓬華は太陽の輝きのように微笑んだ。
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あとがき
初、続き物に挑戦です。
一応、11巻辺りということでお願いします。
話は原作とだいぶ違ってくるやも知れませんが、どうぞお付き合い願います。